講談社MouRaにて2006年6月から3年3ヶ月に渡り連載されていたCloseUp Flash。
ネットから飛び出し様々な場へ活躍を広げていった当時のFlash界隈の動静がまとめられた内容でしたが、サイトの消滅とともに失われてたコンテンツとなってました。
サイトの消滅といえば、再掲載にあたりWeb上から消えてしまった作品も多く、実際に再掲載できたのは当時の連載の半分にも至りません。その理由は、やはりSNSの隆盛によって無料ホームページサービスが相次いで終了したことが影響しています。
特に最後にして最大の砦であったジオシティーズ (GeoCities)が陥落してしまったことにより、2000年代に個人のWebサイトで掲載されていたFlashコンテンツの多くが失われたことが残念でなりません。
そのような状況でも移転先のサイトやニコ動やYoutubeなどで再公開されている作品など、Web上に残存している作品を再編集したことで、もう一度日の目を見てもらうことができたのではないかと思います。
そこで今回はこれまでの総括として、当時のFlashを中心とした個人制作の動画を取り巻く環境の変化を紹介したいと思います。
■CloseUp Flashの開始は激動の年
CloseUp Flashの連載が始まった2006年当時は、Flash界隈にとってまさに激動の年と言っても過言ではないほどの変化が起きました。これまでWeb上やオフラインイベントくらいしか公開の場がなかったFlashアニメが、TVやゲームの世界に参入するようになったことがあげられます。
そのキッカケとなったのが、FROGMAN氏の『秘密結社鷹の爪』やラレコ氏の『やわらか戦車』。当初は個性豊かなキャラクターに注目が集まりましたが、後にローコストなどの制作面でのメリットが着目され、CMなどの広告やマンガのDVDアニメ化、映画化にFlashが利用されるようにもなりました。
・ウェブの枠を越えていくFLASHムービー
■展示会/コンテストへの出展
企業・公共団体主催のイベントに対する再掲載は今回ほとんど行いませんでしたが、Flashが注目を浴びたことの裏付けとして、コンテストや展示会などでを見ることで確認することができます。これまでもFlash作品がコンテストなどでエントリーされたことはあるかと思いますが、2005年頃からその数が如実に増加しています。それに合わせて東京国際アニメフェアをはじめとする様々な展示会でも、Flashアニメを中心としたコンテンツを見かけることが多くなっていきました。
・DIGITAL CONTENT EXPO2008 イベントレポート
■クリエイターの商業デビュー
Flashアニメの露出が高まることによって個々のクリエイターにも注目が集まるようになり、2008年頃にはルンパロ氏や森野あるじ氏、青池良輔氏などFlash界を代表するクリエイター達の作品が次々と商業デビューを飾りました。CloseUp Flashでもこれまで様々なクリエイターさんをインタビューさせて頂きましたが、モノ作りに対する強いこだわりが面白い作品を生み出しているということが共通して感じられました。
・IOSYS特集1/IOSYS特集2
・『ズモモとヌペペ ふしぎなまきもの』著者 ルンパロ氏インタビュー
・『空のエトラ』連載開始記念 森野あるじインタビュー
・小説『終わらない鎮魂歌を歌おう』著者 未乃タイキ ロングインタビュー
・『キミとボク』出版記念 著者 やまがらしげとロングインタビュー
・ちーむどらむすこ インタビュー
■映像制作スタジオの設立
商業デビューの流れとは別に新たな動きがあったのがクリエイターの組織化です。2008年頃からこれまで個人レベルでコラボレーション活動を行っていたクリエイターが会社を立ち上げ、TVアニメ化やDVD制作などより大きなチャンスを掴むようになりました。その一方で、自分のオリジナルアニメを作っていきたいが生活のためには請負の仕事をしていかなければならない、といったジレンマを抱えていることがインタビューを通して感じられました。
・クリエイターズ スタジオ訪問記 -STUDIO MORIKEN-
・クリエイターズ スタジオ訪問記 -スタジオぷYUKAI-
・クリエイターズ スタジオ訪問記 -弥栄堂フヰルム-
続いてコミュニティの流れについてこれまでの推移を振り返ってみたいと思います。
■Flashイベントの盛衰
これまで2ちゃんねるのFlash・動画板で大きなムーブメントを作ってきたFlashアニメは、季節ものやゲーム、MotionGraphicsなど様々なテーマのイベントを生み出してきました。ピーク時には毎月何らかのイベントが開催されるほどの盛り上がりを見せていましたが、クリエイターの商業デビューと反比例するかのようにコミュニティは空洞化し、Flash衰退論まで取りざたされるようになりました。事実、Flashのオンラインイベントは年々減少を続け、オフラインイベントに至っては2008年は1つも開催されませんでした。
先日2年ぶりにオフラインイベントが開催されましたが、クリエイターや視聴者が密に接することができ、それがまた新たなものを生み出す原動力となる場として重要であることを改めて感じさせられました。
・Flash上映&トークイベント 映夜祭’06レポート
・FLASHアニメーションライブイベント うらはくレポート(前編)/うらはくレポート(後編)
・映像ライブイベント slashup04特集(1)/slashup04特集(2)
・映夜祭’07 イベントレポート1/イベントレポート2/イベントレポート3
・FRENZ イベントレポート
■動画共有サービスの台頭
Flash作品やイベントが減少するのと同時期に注目が集まったのが、『ニコニコ動画』や『Youtube』を始めとした動画共有サービスです。ニコニコ動画やYoutubeなどの動画を提供するプラットホームが提供されたことで動画に対する敷居が低くなりました。最近ではFlash作品もニコニコ動画で公開されることが多くなり、コミュニティの場が2ちゃんねるからニコニコ動画にシフトしていったことが感じられます。
動画共有サービスの台頭は、公開のしやすさなどツールによるアドバンテージやメリット・デメリットの敷居を取り払い、プロやセミプロを含め、これまでWebに公開することのなかった様々なジャンルのクリエイターや演奏者、パフォーマーが増えました。一方で様々な動画があふれたことにより、評価されるべき動画が埋もれてしまう現象も生み出しています。
・動画共有サービスで鑑賞できる卒業制作アニメ
・動画共有サービスで鑑賞できる自主制作アニメ1
・動画共有サービスで鑑賞できる自主制作アニメ2
・動画共有サービスで鑑賞できる自主制作アニメ3
・動画共有サービスで鑑賞できる自主制作アニメ4
・動画共有サービスで鑑賞できる自主制作アニメ5
■VOCALOIDとFlashアニメの共通点
ニコニコ動画のコンテンツの中でも、CGMの成功事例としてあげられるのが初音ミクを中心としたVOCALOID関連のコンテンツでしょう。VOCALOIDとFlashアニメの盛り上がりには様々な共通点があります。
まず1点目にVOCALOIDには初音ミクのイラスト、Flashアニメにはアスキーアートという文字絵があったことです。これらには動きもなければキャラクターもありません。このまっさらな器を自由に動かしたいという欲求が様々な作品を生み出してきました。
2点目に、VOCALOIDにはニコニコ動画、Flashアニメには2ちゃんねるというコミュニティの場があったことです。コミュニティの場があったことで様々な作品が鑑賞され、作り手と視聴者を増やしていき、イベントの開催や商業デビューへと繋がっていきました。
3点目は、VOCALOIDにはUTAUやMikuMikuDance、FlashにはParaFla!といったフリーソフトの存在です。初音ミクもFlashも有償ソフトですが、フリーソフトの提供によって制作に対する敷居が低くなったことが、コンテンツの盛り上げに一役買ったことが言えるでしょう。
コンテンツの盛り上がりには、自由に弄ることのできる器とそれを多くの人に見せる場、制作を支えるツールの提供…この3つの要素が今後のコンテンツビジネスを考える上で重要なポイントになってくると思われます。
・初音ミク特集1/2/3/4
・鏡音リン・レン特集1/2
・CGアニメを革新する技術
・進化し続ける3D映像技術
<再編集後記の後記>
上記でご紹介した作品以外にも年末企画ということで、様々な人と対談を行いざっくばらんな会話をさせていただきました。予想が当たっていたり的はずれであったり色々ありますが、当時の自分の考えを振り返るキッカケにもなりました。
・かーず×GilCrows 年末スペシャル対談 (1)/(2)/(3)
・2007年 年末スペシャル対談
・yossy×真狩×UG-K 2008年 年末座談会
連載当時は社会的にも激変の時代であり、特に2008年のリーマンショックによる不況が本連載終了の一因だった可能性もあるのかなと今更ながら考えています。そして2020年現在のコロナショックは、当時のリーマンショック以上に経済や社会基盤を揺るがす事態となっており、今後しばらくは苦しい状況が続くことが予想されます。
テレワークやオンライン学習など、New Normalに向けて様々な変革が強いられる時代となってしまいましたが、とにかく健康を大事にして乗り越えるしかないかと思います。
そしてインタビューや当時の作品掲載に応じて頂いたクリエイターの皆さん、そしてイベントの主催やスタッフの皆さんに改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。