【CloseUp Flash Reloaded】初音ミク特集1


最近ネットでは「初音ミク」に関する話題が注目されている。かく言う私も発売直後からみっくみくにされている。発売されてから12日後には、初音ミク中心のイベントである「THE VOC@LOiD M@STER」開催が決定し、この2ヶ月で音楽ソフト市場では異例の20,000本以上を売り上げ、動画配信サイト「ニコニコ動画」では既に7,000を越える作品が掲載されている。なぜ短期間でここまで盛り上がったのか? パッケージのイラストや声優「藤田 咲」さんによるキュートなボイスによるキャラクター性、ニコニコ動画などの作品公開の場があることなどが要因として語られているが、個人的には単なるDTMソフトに留まらない様々な可能性が秘められていることにあるのではないかと感じている。そこで今回は、これまで公開された作品紹介を通して初音ミクが持つ魅力と可能性について探ってみたい。

<初音ミクとは>
「初音ミク」とはクリプトン・フューチャー・メディア(株)より2007年8月31日に発売された歌声合成ソフトウェアだ。メロディと歌詞を入力するだけでリアルに音声合成された歌声を生成するVOCALOID(ボーカロイド)はYAMAHA株式会社によって開発され、これまで5製品が発売されている。今回発売された初音ミクは、「キャラクター・ボーカル・シリーズ」として声優を採用したVOCALOID 2 CVシリーズの第1弾である。発売されてから初音ミクを利用した様々な作品がネット上で公開されてきたが、従来のVOCALOIDシリーズに比べて初音ミクは開発側が想定していなかったような様々な使われ方がされている。今回インタビューさせていただいた たまご氏 の協力のもと、様々な使われ方の一例となる作品を時系列に追ってみた。



<2007年9月上旬>
初音ミクが発売されてから間もないこともあり、アニメソングなどの既製曲を使った試行錯誤的な作品が多かった時期である。また早くから初音ミクの人気が集まった結果、想定以上の注文により入手困難となっていた中で生まれたのが、注文した初音ミクの到着を待ち焦がれるワンカップP氏による替え歌である。

初音ミクが来ない?来た?

ゲームサウンドに乗せた替え歌の妙技が冴えているが、注目したいのはこれまでブログなどテキストで自分の思いを表現したことはあっても歌にそれを込めて公開することが無かったことだ。新たな自己表現の手段のとして初音ミクは1つの可能性を広げたといえるだろう。

既製曲を使った作品の流れは今でも続いていて、中には人間が歌ったものと違和感ないレベルにまで達した作品もある。そのような中、初音ミクブームに火を付けた一役者であるOtomania氏&たまご氏の作品が公開された。


VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた

ネギ回しで有名なLoitumaを初音ミクが歌ったこの作品は、多くの人に初音ミクの魅力を伝え、初音ミクと言えばネギといったイメージを植え付けた。また、既製曲だけでなく制作者が作詞作曲したオリジナル曲を初音ミクに歌わせた作品も出現した。

恋スルVOC@LOID

これまでもアマチュアでオリジナル曲を作る人は数多くいたが、曲を作ることはできても歌を入れるためには歌い手を探すことから始まり非常に多くの困難があった。そんな作曲者に希望の光をもたらしたのが初音ミクであり、歌を入れることによって曲の世界観がさらに広がったことが動画から感じられた。

これらの作品は主に「歌わせてみた」といったカテゴリに属するものであるが、その他にも初音ミクのイラストを2Dや3Dで描いた「描いてみた」シリーズが存在し、これらも人気を博していた。



<2007年9月中旬> (以下協力:たまご氏)
この時期に活動が盛んだったのは、イラストを中心とした『描いてみた』といったジャンルである。『描いてみた』系で主に注目を浴びたのは、前回紹介したワンカップP氏による「来ない?来た?シリーズ」やイラストの制作工程を紹介した「初音ミクが可愛すぎるので描いてみた」などがある。

初音ミクが可愛すぎるので描いてみた

上記のようなイラストだけでなく、他にもゲームのエディットで描いた「Forza2 AE86とZZT231とSXE10と初音ミク」などがある。これまでパッケージのイラストのみで公開されていた初音ミクの歌にこれらのイラストが加わったことで、キャラクター性や応用の幅がさらに広がった。

『描いてみた』系が生まれた一方で、初期から続いていた『歌ってみた』系では、メジャーなアニメソングが大方歌い尽くされたため、演歌や童謡、合唱曲など比較的難しいジャンルにチャレンジする傾向が見られた。

初音ミクでドナドナ


また意外な発想から生まれたものとしてCMソングやJRの発車音楽が存在する。

初音ミクがJRの発車音楽を歌ってみました

発車音楽は、各駅のメロディやフリーソフトRailSim2を使った上記の動画など多くの作品が誕生した。こんなメロディが聞こえてきたら、満員電車で押しつぶされる毎日の辛い通勤も少しは楽になるかもしれない…

また『オリジナル』系では、初音ミクをバーチャルアイドル化させる決定的な作品が生まれた。

あなたの歌姫


特に以下の「みくみくにしてあげる♪」は、2chのアスキーアートキャラの発言「ボコボコにしてやんよ」から生まれ、「みっくみくになった」という初音ミクにハマったり魅せられたことを意味する言葉が定着するまでのブームに至った。さらにこのあと創作される様々な作品に使用されるスタンダードナンバーとなった。

【初音ミク】みくみくにしてあげる♪【してやんよ】


これらオリジナル曲の誕生により、9月下旬より様々な分野で初音ミクによる創作活動が活発化していった。



<2007年9月下旬>
初音ミクがバーチャルアイドルとして注目を浴びたこの時期から既存のオリジナル曲を元に様々なジャンルが増えていった。特に『描いてみた』系においては、3D化の試みが活発に行われていた。3D化を行う手法としては、主にモデリングソフトを使って一から作り上げるケースと、「ラクガキ王国」や「らぶデス」などのゲームソフトを利用したケースがある。前者の例としてズサ氏制作によるはちゅねミクの3Dデータを利用した「初音ミクを3D回転させてみた」や「はちゅねミクをふやしてみた。。」があり、後者の例には、「初音ミクをつついてみた」や「ラクガキ王国2をみっくみくにしてみた」などがある。

初音ミクちゃんの2.5次元へようこそ

注目すべき点は、作成したデータをほとんどの人が公開しており、様々な人がそれらのデータを使ってアニメやPVなどを制作している所だ。これらの情報公開が今日の初音ミクの盛り上がりに一役買っているのは確かであろう。また同時期に3D化の他にも『動かしてみた』系では、イラストをベースとしたアニメ化作品も公開されるようになってきた。

【アニメに】初音ミクアニメ化計画に挑戦してみた【してやんよ】


もう一つこの時期に活発だったのが、『作ってみた』系である。特にはちゅねミクのネギ回しをいかにして実現するかという課題に対して時計やワイパーに取り付けるなどアナログ的なアプローチで実現してきた。後にこれらのネギ回しを作ってみる作品はシリーズ化されている。

初音ミクのねぎ回しを実際に作ってみた、を進化させてみた


『作ってみた』系では上記のような電子工作の他にも、フィギュアや造形など様々な手法で初音ミクを作り上げている。初音ミクブームの要因の一つには、このようなDTMユーザー以外の人たちも自分が得意とする領域で参加でき、それが許容されていることにあるのではないだろうか。
また「みくみくにしてあげる♪」以降活動が盛んになった『オリジナル』系では、名曲がたくさん生まれるようになった。

初音ミク オリジナル曲「この想い伝えたくて~ココロノ花ビラ~」


初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「Packaged」 Full Ver.


このような流れにより2007年10月以降、初音ミクの歌は3D化の流れと相まって『オリジナル』系の曲がほぼ主流となっていった。