クリエイターは日々さまざまな作品を生み出している。普段クリエイターはどのような環境で作品を作っているのだろうか? そんな疑問を解決するべく、クリエイターさんのお宅を訪問して作品誕生の背景を探ります。第2回目はFlashクリエイターやイラストレーター、Webデザイナーが中心となって立ち上げたクリエイターズユニット「スタジオぷYUKAI」の製作現場におじゃましました。
≪芦名みのる プロフィール≫
1977年生まれ。“みのぷう”名義にてFlashクリエイターやFlash上映イベント『FLASH EXPO』の主催として活躍。芦名みのる名義となってからは、スタジオぷYUKAI代表兼プロデューサーとしてアニメDVD『世にも奇妙な漫☆画太郎』(集英社/Liverpool/パンダ工場)の製作を手掛ける。著書に「日本一かんたん! 1日でマスターするFLASH FLASH 8対応 Windows版」および「日本一かんたん! 1日でパワーアップするFLASH FLASH 8対応 Windows版」(ともにアスキー出版)。
≪たけはらみのる プロフィール≫
1977年生まれ。Flashアニメクリエーター、デザイナーとして数々の雑誌、書籍に掲載される。有志によるオンラインイベントが開催されるなど、Flash作品に対して多くのファンを持つ。アニメDVD『世にも奇妙な漫☆画太郎』では、作画監督、アニメ製作を担当する。現在は『魔法使い!?まなみ』のリメイクバージョンを製作中。
<スタジオ化の経緯について>
スタジオぷYUKAIは、緑豊かなつくばの閑静な住宅地にスタジオを構えており、芦名みのる氏やたけはらみのる氏の自宅近くにある。目の届くところで製作することによって、お互い勉強になるという点がスタジオという同じ場所で製作するメリットだと芦名氏は語る。
2007年の12月ですね。ちょうどクリスマスの時期で起業してからすぐに引っ越しました。
個人として活動しているクリエイターが多い中、スタジオを立ち上げた理由は?
個人クリエイターとして成功している方も結構いらっしゃるのですけれども、個人アニメーションの弱点というのにスピードというのがあると思うのです。
せっかく個性のある良いものを作られたのに、一人だと時間がかかるとか最後まで仕上がらないという弱点をお互いに補えないかということでスタジオ化しました。
そのスタジオの名前で仕事をやっていくことによって仕事が集まってくる。個人でやるのは個人で自由にやればよいので、人手がいる仕事の時に集まれるユニオンみたいな形でできたらなとずっと昔から考えていました。
効率は上がりましたね。やっぱりこの部分は誰が得意で誰が苦手かと言うことがわかりやすかったので、割り振りさえ上手くいけばびっくりするようなスピードで製作ができました。
『世にも奇妙な漫☆画太郎』では、製作のリズムを掴むまでは大変だったんですけれども、いざ手を動かし出すと30分のアニメを2ヶ月かからずに作れました。なかなか個人ではそこまでのスピードでできないので、そういう意味では効率化が図れました。
苦労した点は、作業が早い人と遅い人の差が出てくる点ですね。上手いこと割り振りを組んでも待ちの時間ができてしまったりすることがあります。
あとは全員モノを作っていくという心意気のある人達が集まっているので、作っていく中で“こだわり”の所の衝突がありますね。
それは悪いところじゃなくて良いところなんだけど集団ならではのことかもしれませんが、結構もめたりはします。
<製作環境・製作体制>
製作体制はシナリオ/脚本を芦名氏が担当し、絵コンテは芦名氏またはたけはら氏が担当するそうだ。
ストーリーを固めた後、アシスタントのアサイン・製作管理をたけはら氏が行い、仕上げは全員で作業を進めている。PCのダウンやHDD故障の影響を避けるため、データは全て共有ディスクで管理しているという。
アシスタントさんは主にスタジオ以外のところで製作されているのでしょうか?

そうですね。こちらに来て手伝ってくれることもありますけど、やっぱり個人のクリエイターさんに頼むときはメッセンジャーとかでお願いしています。
でも最近はすぐに返事が要るので電話が多くなっています。
分業をしていると作業スピードの差のほかにも、品質の差が出てくると思うのですが、この点はどのように対応しているのでしょうか?
今のメンバーでは、アニメーション製作に関しては作画力とかアニメーション力に明確に差が出ています。アシスタントさんにもお願いすることがあるんですが、キャリアによって差があるので、上の人がフォローをすることでその差を埋めていっています。
アニメに関してはたけはらみのるがフォローしてくれています。あとはたけはらみのるが気にしなかったところを他のメンバーがさらにフォローするので、そういう意味では全体のクオリティーは上がっていきますね。
やはり“こだわり”のポイントは人によって違うものなのですか?
全然違いますねポイントが(笑)。
『え?何でココこだわらないの?』と言う点がお互いあって言ってもすぐ通じないんです。
やっぱり自分が納得いかない所って直したいじゃないですか。だから例えたけはらみのるが上手いと解っていても彼が無視したところはこっちで直すみたいな。
今回のアニメは主要メンバー全員でこだわりながら作っていきました。
今後スタジオの製作体制や環境をどのようにしていこうとお考えですが?
スタジオを作って1年半くらいになるのですけども、立ち上げ直後から意外と仕事がばたばたと入って、目先の仕事に走って来たので今は大きい仕事ができるようにシステムの刷新中です。
あと今は制作会社になってしまっているので、企画もできるような会社する為にも書類の準備など今更ながら下積み中です。
<アニメDVD『世にも奇妙な漫☆画太郎』について>
『世にも奇妙な漫☆画太郎』をFlashアニメ化することになった経緯についてお聞かせ下さい。
30分のDVDアニメを作れる人が欲しいということで、いま多方面で活躍されている春日森春木さんが紹介してくださったことがきっかけです。
漫☆画太郎先生の作品は非常に個性的ですが、Flashアニメ化することに対して不安などはありませんでしたか?
不安しかなかったですね(笑)。
線が多く作業が込んでしまうのでそもそもアニメに向かないんですよ。取り込みという提案もあったんですけど、それだと作っている意味がないので今回は線画にこだわって全部描き出しています。
しかしそれによって逆に漫☆画太郎先生の作品はアニメが映える作品であることがわかりました。
Flashアニメ化についてその他に苦労した点や新たな発見はありましたか?
苦労したのは音ですね。Flashアニメーションの売りは何かと考えたら『間』だと思うんです。だからその間を活かす音の使い方がポイントになってきます。
普通のTVアニメとは全く違う感じで音楽が使われるので、それを30分続けるということに凄く気を使いました。
あとセルアニメとの毛色の違いですかね。Flashってやっぱり短い尺のアニメにすごく向いているものだから30分アニメーションを観させる為に、どうしたらいいかとか悩みました。
音楽の他にも声優さんの選定には悩みなどはあったのでしょうか?
今回の声優さんはこの人しかいないというくらいこだわりにこだわりました。
たくさんのアニメを見て、気に入った声優さんがいればネットで調べて問い合わせて…といった流れで決めました。
今回スタジオぷYUKAIのメンバーであるミッキー三木氏が声優として初参加されたわけですが感想は?

今回一部は有名な声優さんで、あとはネット声優の方とかを中心にアフレコしたのですけども、やっぱりすごく上手い人たちがいると全員を引っぱっていってくれるんですよ。
2巻でミッキー三木は名塚佳織さんと掛けあったりしたのですけども、演技に引っぱられるというか、それが名塚さんがプロたる所以だと感じました。
ミッキーさんはその後、普通の声が出なくなっちゃって、カラオケ行ってもちゃんと歌えなかったりしましたね(笑)。
ミッキー三木氏の起用は漫☆画太郎先生が気に入ったからということらしいですね?
びっくりですよね。何がどう気に入ったのか知りたいです(笑)。
最初仮声を全部ミッキー三木の声でやって、それを漫☆画太郎先生にチェックして頂いたのですが、それを聞いた漫☆画太郎先生から誉めてもらえて『コレでいこう』ということになりました。1巻の宇宙人の声が気に入ってもらえたようです。
<『魔法使い!?まなみ』について>
今回リメイクすることになった経緯についてお聞かせ下さい
未だに多くの人に見て頂いており、設定も色々な分野に展開できる可能性が高いサイエンスファンタジーなのですが、今まではプロモーションビデオの域を超えてなかったので、これをストーリーアニメーションに仕上げたいと思ったことがきっかけです。
『世にも奇妙な漫☆画太郎』の製作を通して会話のあるアニメーションを意識できるようになったので、オリジナルアニメ第1弾として『魔法使い!?まなみ』を作り直しました。
『魔法使い!?まなみ』は現在Web上でも公開されていますが、Web公開版との違いは何でしょうか?

一番違うのは声が入ったということです。今回プロの声優さんに声を入れて頂きました。
基本的にボクの作る作品は、声がないというのを前提にキャラクタの雰囲気だけで表現していた所があるのですが、今回は声の他にも心の動きや考え方の違いを明瞭に表現することでキャラクタを膨らんでいくというところが大きな違いだと思います。
声優さんとの契約もありネットで公開する予定はありませんが、2009/5/16~17に開催されるデザインフェスタvol.29のアトリウムブースで限定公開する予定です。
将来的にはDVDや劇場などで公開できればよいかなと思います。
<今後の活動について>
先ほどたけはらが言ったとおり5/16~17に東京ビッグサイトで開催されるデザインフェスタvol.29にブース参加します。
『魔法使い!?まなみ』や他のスタッフが製作したアニメーションの上映やぷYUKAIスタッフがデザインしたTシャツなどを販売しているので良ければ見に来てください。
今後の活躍を期待しています。ありがとうございました。
・スタジオ ぷYUKAI