2008年10月23日(木)から4日間に渡り日本科学未来館および東京国際交流館で最新のデジタルコンテンツ技術による研究成果や芸術作品を体験できるイベント「デジタルコンテンツエキスポ2008」が開催された。今回は4日間で2万人が訪れた本イベントの中で「フラッシュアニメ台頭後のクリエイター事情/個人制作作品から見える新たなチャンネル」と題されたトークセッションの模様をお伝えしよう。
講師はお馴染みFlashアニメーション作家のルンパロ氏と編集家の竹熊健太郎氏のお二人。今回のセッション開催の趣旨として、新しい人材を知る機会が色々開催されているコンペティションの中だけで良いのかという疑問から、一つの道筋を紹介することで作家がどういう方向に向かっていけば良いかと示すことであることが述べられた。
また「フラッシュアニメ台頭後~」というタイトルであるものの、今回紹介される4作品は全てフラッシュではないことが言付けられた。
続いてフラッシュアニメ台頭後のクリエイター事情を紹介する上でフラッシュというソフトがどういうものであるかという紹介が実演で紹介された。フラッシュの優れている点としてプレビューが瞬時に見れるところであることが語られた。
ルンパロ氏:実際に素人がアニメーションを作ろうと思ったら、自分で形や動きまでは考えられるが実際に動いているのを見てみないと細かいところまではわからない。
竹熊氏:フィルムの時代は現像するのに1週間かかったから大変だったよね。
ルンパロ氏:「フラッシュアニメ台頭後~」と銘打ってはいますが、実際フラッシュというソフトを使うからすごいのではなくて、アニメーションは色々なアプリケーションがあって、自分のテイストに合ったものを使えばいい。その点においてフラッシュは、実際に動かしているシーンを簡単に見られる。私の知る限りこんなに瞬時に見られるソフトは他にないです。
竹熊氏:これができるからアマチュアでもアニメが作れるということだね。
ルンパロ氏:敷居が低いので初心者の方にもうってつけのソフトなんだろうと。
竹熊氏:結局プロが何ですごいかというと、完成する前から仕上がりのイメージが経験上わかるからなんだよね。それがこういう形でモニタですぐ見ることができるので、アマチュアでもプロ並みの作業ができると思う。
ルンパロ氏:実際海外の映画祭とか色々ありますけども、世界の中でもアニメーションをこれだけ流通しているのは唯一日本だけなんですよね。マンガにしても去年あたりから世界を席巻していってる。
竹熊氏:実際のところどうかわからないけど、確かに日本のアニメやマンガのファンが増えているのは事実だよね。
ルンパロ氏:コスプレのイベントなんかでも海外の方で注目度が上がっている。だからこの辺のことを語るのであれば、日本を中心に全てを語って間違いないだろうというのが私の考えです。
竹熊氏:現状ではそういえますね。
ルンパロ氏:ここにおられる方々は、生まれたときからアニメやマンガがある状態で成人するところまで育ってきている。そんな国は世界を見ても多分ないです。ですからみんなの頭には、この辺の素地が入っている。
竹熊氏:それがベースにあってここ10年くらいのインターネットやフラッシュのようなソフトの普及が相まって今の状況が出来ているということですね。
ルンパロ氏:要はネットがつながって自分で展開できるようになったときに、全く今まで経験がなくてもそういったモノを形にしてみたいという人たちが公開するようになったのが2000年からです。
竹熊氏:プロフェッショナルの世界というのが昔からあって、プロはお金も人もかかるので素人には敷居が高い作品を作っていたわけだけど、ここ数年の間に状況が変わってきた。それが今言ったパソコンとインターネットとフラッシュのようなアプリケーションの普及で素人でも結構作れるようになってきたということが一番大きな点だよね。
ルンパロ氏:実際フラッシュが普及される要因になったのが2005年の末からで、ご存知のかたも多いと思いますが「やわらか戦車」や「秘密結社鷹の爪」が時代の寵児になってしまった。それまで画質が低いものと見られていたフラッシュが、実際媒体の前に出てみんなが面白いと思うとこれがビジネスとして成立することが明確になった瞬間だと思います。
竹熊氏:フラッシュ自体は1990年代からありましたけど、蛙男商会やラレコさんのような人が出てきたのが2005年のJAWACON。そこでプロのエージェントの人たちと知り合って商業的なブレイクに結びついたわけですよね。
ルンパロ氏:ですので、ここから作品として目指すものとしては、フラッシュや3Dなどアプリケーションや画質のようなことではなくて、その作品が本当に面白いかどうかということが問われていく時代に入っていく、むしろ入っていかなければならないと思います。
竹熊氏:これから上映する作品を見ればわかると思いますけども、いわゆる技術的なクオリティだけではない。作品が面白いというのは総合的な要素であって、色々な要素が絡んで出てくるものなので、今回紹介する作品を見ればわかるのではないかと思う。
ということで、最初に紹介された作品がぴろぴと氏の「username:666」。海外で評判を受けた作品として現状は80万アクセスを越えており、頭角は既に表していたものの、この作品の発表をきっかけに各方面に注目されるようになったことが紹介された。
ルンパロ氏:独特の色調で、実際ぴろぴとさんを知っている人がこれを見たら、事前に知らなくても誰が作ったかというのがわかると思うのです。今回持ってきた作品は何れもその作品が誰のものであるのかわかるほどの個性があり、それが今後重要になってくると思います。
ルンパロ氏:この作品を公開して注目度が集まったことで国内外の数社から実際オファーがあったようです。こういった個性表現の中から色々なチャンネルが生まれてくるだろうということを表した作品だと思います。
続いて紹介された作品は、ウサギ王氏の「チョップスティック」。
ルンパロ氏:この作品を作られている方は、ゲームやTV番組のオーサリングをやられているプロの方で、何でこんなものを作ったのと聞いたら『やってみたかった(笑)』と。プロの方であっても全く違う分野から新しくチャレンジしてみようということですが、お話の練り方がプロらしくきちんと一本筋が通っている。
竹熊氏:ちゃんと作ってますよね。YouTubeやニコニコ動画にアップするって言うのが今っぽいよね。
ルンパロ氏:制作者は、中国の方でも技術セミナーとかもやってますが、この作品を作るにあたりもう中国には入れてもらえないかもと言うことを覚悟した上で作られたという逸話があります。次回作も色々な模索をしているそうですが、社会的でみんなが興味を示すものをどういうふうに伝えられるのかを実験する上で作られている作品です。そこに新しい活路が見いだせるかもしれないと。
竹熊氏:こういう作品でも、自主制作、自主流通ということであれば十分出せますよね。今は、ネットがあって映像作品を自由に発表する場があって、そこで宣伝してソフトを売るということも可能なわけです。新しい販路が個人作家の手でできる時代になってきたこともあると思うんですよね。
ルンパロ氏:ワイドショーが喋っていることと比べるとかなりマイルドことを言ってますよね。だから地上波でも出せる可能性は十分あるかと。そういったところでのチャンネルは新たに発生する可能性はあるかと。作品の精度はプロなので申し分ない。そこをちゃんと狙ってきたという作品といえますね。
続いて紹介された作品は、のすふぇらとぅさんの「海からの使者」。
ルンパロ氏:ここのところ動きがなかったのですが、実はとんでもないところまでクオリティが上がってました。2005年のJAWACONで海からの使者の前編が公開されて、後編がさらに3年半かけてもまだ未完成となっている状態です。
竹熊氏:この“のんちゃん”というキャラクタが最初はGIFアニメで描いていたキャラクタで。それがどんどんグレードアップしていった。
ルンパロ氏:GIFアニメで遊び程度で描いていたのですけど、この段階でもアニメーションとして成立するキャラクタだったんです。
竹熊氏:趣味でアニメを始めてこのレベルになっている。本人は八百屋さんをやる傍らアニメを作っているんですよ。ネットで発表していったのがどんどんグレードアップしていった。
ルンパロ氏:彼が非常に面白いのは、ともだちを勇気づけたいとかそういう理由のためだけに1年以上かけてアニメーションを作ったりするんです。それがあるからメッセージ性とかが強いと思うんです。
また前編からさらに進化した作品「海からの使者・後編(工事中)」が同時上映された。
竹熊氏:この人はアニメーションの技術を1から作りながら学んでいったんですよね。
ルンパロ氏:ホントに好きだからこそ作っていったんですよね。それをここまで具体的な形にしたっていうのが驚きです。この作品はプロ真っ青と言えるほどホント凄いです。3年間の沈黙がわかると言うくらいとんでもないモノになってます。
竹熊氏:これを一人で作ってるというのが驚きますよね。
ルンパロ氏:モノクロですけどもこの画質表現はプロが作った話題作品でも早々見れるものではない。
竹熊氏:ガイナックスの新作だと言っても通用するよね。
ルンパロ氏:どんどん行きつくうちに彼はこんなところまでやってみたくなったんでしょうね。
竹熊氏:彼の旧作はほとんどサイトで見れますが、最初の方はホントにパラパラマンガで。そこからココまで技術が向上するものかっていうくらい驚きますよね。音をちゃんと入れれば劇場で公開できますね。
ルンパロ氏:ただ前編と後編だけでもクオリティが全然違うので、一本まとめて形にできないという怖さが。
竹熊氏:作りながら技術を覚えているから、どんどん技術アップしているので最初作った作品はもう古くなっている。
ルンパロ氏:だからここまで進化したという時間軸で楽しむ見せ方ができると、この作品はかなりの大きな力をつけていくのではないだろうかと。アマチュアならではの力を発揮できるマーケットが欲しいなと思いましたね。
最後に紹介された作品は、のすふぇらとぅさんとは対極的なもので上映会を通して段々話題となっていった伊勢田勝行監督の作品「浅瀬でランデブー」。
竹熊氏:この主題歌も全部監督がオリジナルで作っています。この人は元々リボンにマンガを投稿していてそれをもとにアニメを制作しているそうです。
ルンパロ氏:声も全て一人で出されていて、副音声もカセットテープで録音して意図的に音を歪ませているようです。
竹熊氏:主題歌のバックの演奏も全部カセットデッキを2台使って多重録音をやっている。だから音が歪みまくりですごいことになっている。
ルンパロ氏:そこに一つの世界観を見出していている。ただ作品としてはストーリーが成立して十分面白い。
竹熊氏:本人は20年くらい前からマンガとアニメ両方やっていて、ある意味スタイルが完成されていると言える。ニコニコ動画で監督の名前を検索をすれば何本か公開されているので是非見て下さい。
ルンパロ氏:長い作品が多いので数見ないとわからないかもしれませんね。
竹熊氏:コミケでも4作品80分というようなDVDを毎年のように出している。個人で作っている作品本数では記録的じゃないかと。
ルンパロ氏:ビジネスで見た場合ははまっていくところがあるんじゃないかとボク思うんですよね。
竹熊氏:なかなか敷居が高いんだけども見ていると段々ハマって行くのがこの作品の凄いところです。基本的には70年代のリボンのマンガがこの監督のベースにあって、それと60~70年代のアニメと特撮が混ざり合って世界ができている。オタクなんだけどもルーツとしては庵野秀明監督と変わりないんですよ。ただ庵野監督は日本のアニメーションの最高峰のスタッフを使って最高のクオリティで作品を作る立場にありますけど、伊勢田監督は一貫して一人で作っている。手作りのアナログ表現をずっとやっているのは世界的に見ても特異ではないかと。
4作品の紹介の後、これからのクリエイター像について両氏それぞれの想いが語られた。
ルンパロ氏:伊勢田監督だけではなく、今回持ってきた4作品は、作品を見た段階で誰の作品がわかるくらい何れも強い個性があって、それが実は今後重要になってくるであるだろうと思ってます。
竹熊氏:例えば伊勢田監督の作品にしてもインターネットの時代にならなかったらここまで注目を集めることはなかったと多分なかったと思うんですよ。そういう意味ではインターネット以降の作家とも言えるのでは。
ルンパロ氏:個人で作ると言うことになると媒体に対しての展開力、YouTubeやニコニコ動画の他に携帯機器などにも拡がっています。
竹熊氏:今となっては、アニメを作るとか発表することも含めてわりと簡単にできる時代になっている。だけどみんなが作品を作ってYouTubeにアップしたりすると、その中から面白いものを選ぶというのがどうやればいいのかと言うことが問題になる。そこでネットにある作品を選んでプレゼンをするサイトがある。そういう編集者みたいなサイトが重要になる。
ルンパロ氏:フラッシュの方では、イイ・アクセスのようなポータルサイトがあって、そこを見ていれば全てがわかったという時代がありましたが、そういったポータルがないとわかりにくいというのは事実です。でも今はそういったものを含めて企業や団体側でも検討していこうという動きがどんどん出てきています。
竹熊氏:そこは注目したいんだけども、企業主体でどこまでインターネットの流れに即応できるかというのはわからないところでもある。
ルンパロ氏:そうですね。ただ昨今の景気動向もあって、企業の方も本気にならざるを得ない時代に突入しました。
竹熊氏:今、世界中で大恐慌でこれから日本でもその影響が深刻になるんですよ。その前からボクのいるマンガやアニメーションの世界でも流れが変わってきて、企業が今までの作品を作って販売するというやり方を変えないとついていけない時代になってきている。そういう状況でも作品を作る人は出てくるので、そういうものをどうやってパッケージングして売るかということをこれから考えていかなければならない。
ルンパロ氏:企業の方が注目しているのは、携帯電話などを使うとエンドユーザーに直接つながっていくという点を見ている。作家の側も新しい選択肢としてコミケなど自分たちが直接エンドユーザーとつながる手法が出てきており、具体的なビジネスにつながっているケースもある。
竹熊氏:ボクは今大学でマンガ家になりたい学生にアドバイスをする立場にいて、どの雑誌に持ち込めばよいでしょうかという相談をよく受けるんですが、本音としては『持ち込むな』と。『いま既製の出版社に持ち込むよりも、作品を描いて同人誌などで発表する。本当に良い作品なら向こうから来る』と言ってるんですよ。ホントに売れ線のいい絵を描く人は向こうから『ウチで描きませんか』と来るんですよ。なら持ち込む必要はないじゃないかと。
その一例として、フラッシュの作家でもある丸山薫氏の同人誌が紹介された。これまでイラストや挿し絵などの仕事をされていたが、2000年ごろからアニメーションの制作を始めJAWACONでの上映をきっかけとして、国内の様々なイベントを受賞して、企業から声がかかるようになったことで今度プロの商業誌で連載を持つことになったとルンパロ氏は語る。
竹熊氏:この人が本気でやっていたらもっと前に簡単にデビューできていたと思う。それが今になって作家活動を本格的に始めたと言うことで注目を浴びている。
ルンパロ氏:私のほうでも犬のキャラクタが児童書で書籍化される形になりまして、個人がコントロールするということは、こういったことも可能にできるという一例です。今後はこういった動きが企業によっては早いところが出てくると思います。
竹熊氏:ルンパロさんにしても丸山さんにしてもマンガとアニメを両方やっているんですよ。こういう人はこれから増えてくると思う。
ルンパロ氏:望めばそれができる時代がもう来てるんです。
最後の締めとして、学生やこれから作品を作っていく人たちに対して激励の言葉が贈られた。
ルンパロ氏:一番時間がある時期は学生ですが、その時は社会の流動性ってのは全然わかってないと思うので時間を無駄に消費してしまうと思うのですが、その時に頭角を表すくらい気合いを入れていろんなものを作ってもらいたいなと思います。
これまでは、そういったものを作ってもそれを評価するところで動き出す企業がなかったのですけれども、もうこのままの状況ではヤバイというリミットが見えてしまったことで、これからはかなりの企業が動き出すと思います。
誰かがやってくれるとか教えてくれるとか言うことを考えていたら遅いと思います。また技術を持っていればいつかは向こうから来るというのもないと思います。技術を持っているなら自分で発信していく、それが一番早いです。これからの人たちは是非その辺を進めてもらいたいと思います。
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