猫と青年の交流を描いたWebアニメーション『キミとボク』。 2001年7月に公開された本作は、「感動系Flash」の代表作として今なお多くのファンに支持されている。この『キミとボク』が2009年1月30日に絵本として出版された。今回は絵本の出版を記念して、著者のしげっトことやまがらしげと氏に、『キミとボク』の誕生から出版までに至る経緯や作品に込められた想いなどを伺ってみました。
≪対談者プロフィール≫
【やまがらしげと(通称:しげっト)】
おおよそ目に見える要素全てをグラフィックと断定し『グラフィックコミュニケイション』を提唱。2000年1月、Webサイト『UNIVERSAL RADIO』を起ち上げる。以後、Web関連業界や各種デザイン関連業界等で細々と生業を立てつつ、当該Webサイトにて実験を重ね、2001年、実体験を基にしたWebアニメーション『キミとボク』を発表、バージョンアップを重ねつつ現在に至る。
UG-K
Flashを始めたのはいつ頃からでしょうか?
しげっト
本格的に始めたのは1999年末辺りだったと思います。Flashは他の映像系のアプリケーションと較べると取っ付き易く、基本的にはこれ1本で完結することが可能ななので、これなら簡単にアイデアを映像に置き換えることが出来るのではないか、という安易な気持ちで始めました。
その後、その翌年2000年初頭にWebサイトを起ち上げた際、コンテンツの1つとして、Flashアニメーションの公開を開始したというわけです。
その後、その翌年2000年初頭にWebサイトを起ち上げた際、コンテンツの1つとして、Flashアニメーションの公開を開始したというわけです。
しげっト
当時は、兎に角、アイデアを映像にすること自体を最優先としていたので、1本辺りの制作時間の目安を数時間から1日程度とし、様々なアプローチで、手を替え、品を替え発表していましたね。
偶に気が向いたら、Flashのメーリングリストに投稿したりもしていました。
偶に気が向いたら、Flashのメーリングリストに投稿したりもしていました。
UG-K
Flashを始めるまえからパソコンなどでコンテンツを制作されていたのでしょうか?
しげっト
出版の仕事をしていた時代も、イラストやカット描きの仕事ではPhotoshopやIllustrator、Painter等を使ってはいましたが、当時はまだデジタル入稿自体が特権階級の大先生のみ許されるというか、まだまだ一般的ではない部分もあり、そんな理由もあって、仕事では手描きを要求されることが多かったです。
しげっト
編集者レベルでは通っても、その上のお偉いさんが「デジタルはいかん」と…
自分としては、デジタルの方が直しも、仕上げも早いし、なにより絶対楽だと力説していたのですが、印刷屋さんとの兼ね合い等、大人の事情もあったんでしょうね。
自分としては、デジタルの方が直しも、仕上げも早いし、なにより絶対楽だと力説していたのですが、印刷屋さんとの兼ね合い等、大人の事情もあったんでしょうね。
UG-K
『キミとボク』はFlashを始めてから初のストーリー作品となったわけですね
しげっト
実験的なショート作品の公開を重ねていくうちに、そろそろ思い付きではなく、ちゃんとしたストーリーやメッセージのある作品を創ろうというか、ネタは売るほどあったんですが、売れなかったので(笑)。そんな浮かばれないネタの数々を再構築しつつ片っ端から映像化していこうと…。
しげっト
ただ、どれから創ろうかと悩んだのですが、やはり最初は、そのスタートを我が相棒である愛猫の銀王号と一緒にという気持ちがあったんで、ストックしていたネタにないお話を…結局、思い付きなんですが(笑)。
しげっト
それで、だいだい1週間くらいかけて出来上がったのが『キミとボク』です。当時の自分としては時間かけたつもりです(笑)。
UG-K
『キミとボク』では猫の銀王号視点で物語を展開させたのはなぜでしょうか?
しげっト
当時はまだ、銀王号が死んで3年しか経っておらず、心の傷が完全に癒えてないということや、その1年前には父親も他界していたりと、そんな時期に自分の話として描いてしまうと湿っぽくなり過ぎるというか、単なる身の上話になってしまうので危険だというのが1つの理由です。
しげっト
それと、『キミとボク』の制作に着手する遙か以前から、パッヘルベルのカノンと夏の青空を融合させた明確なビジョンが自分の中あり、いつかそのイメージを具体化させたいという気持ち。そこに銀王号を走らせてやったら良いな、喜ぶだろうなと思う気持ち。
しげっト
そして、それを浮き立たせるためのモノクロ描画、モノローグ、フェードイン、フェードアウトなど、それらを華麗なるカノンという楽曲に乗せれば、さぞや綺麗な映像になるのではないかと…当時の制作者としての意図は、楽曲に融合させた華麗なる映像を創りたいということでした。
UG-K
ということは、他にも意図があったということですか?
しげっト
公開当時、『キミとボク』は、極々一部の方々に対して創ったものでした。その人々というのは、自分のサイトに出入りしてくれる方々。つまり、自分のことを知っている人々や、親しい人々です。そういった極々一部の方々に対しての様々な提案やメッセージが込められています。
しげっト
話は少し逸れますが、自分のサイトにはアニメーション以外にも『我思う』という詩のコンテンツがありまして、『キミとボク』は、その映像版といった位置付けなのです。
『我思う』という詩の1つ1つには極々パーソナルな提案やメッセージが込められていまして、それらは閲覧する方々の精神状態や年齢など様々な要因によって受け止め方が変わるようになっています。そういった概念が『キミとボク』のメッセージへと繋がっています。
『我思う』という詩の1つ1つには極々パーソナルな提案やメッセージが込められていまして、それらは閲覧する方々の精神状態や年齢など様々な要因によって受け止め方が変わるようになっています。そういった概念が『キミとボク』のメッセージへと繋がっています。
しげっト
『キミとボク』の公開後、そのメッセージは1つと公言しましたが、それは矛盾ではなく、その中から、その時々に感じたこと、思ったこと、それがメッセージであり、それを受け止めてほしいという考えから、1つのメッセージとしたのです。
UG-K
『キミとボク』公開後の反響はどのようなものでしたか?
しげっト
『キミとボク』公開当初は、それまでの作品と同様に、自分のサイトに遊びに来てくれる方々やFlashメーリングリストの方々からの反応がありまして、その反応というのはだいたい1~2週間で沈静化するのが通例だったので、一息ついたら、また次の作品を創るといった感じでした。
しげっト
勿論、他の作品と較べ『キミとボク』には強い反応がありましたが、それでも公開後の初動と較べれば微々たるものでした。ところが、それから半年後くらいにいきなりアクセス数が激増しまして、要はブレイクしたようなかたちになりまして…全く知らない方々から膨大な数の感想をもらうようになり、一体全体何事かと…なぜブレイクしたのかよくわからなかったんです(笑)。
しげっト
好意的、批判的共に予想外の強烈な反応にとまどいまして…しかも、年齢層が広い。当時、プライベートなトラブルで精神的、時間的にも全く余裕がなかった時期が続いていたという理由もあり、満足な対応すら出来ず、こりゃまいったな、と。特に、ペットと暮らしている方々からの反響が特に多く…ああ、よくよく考えると『キミとボク』ってペットロスのお話なんだ…と。
しげっト
自分にとっての銀王号という存在は同居人というか、友達というか、子分のような認識だったんで、ペットという意識があまりなかったというか…言われてみればペットだったのかと(笑)。
UG-K
2005年の『キミとボク』英語版が作られた経緯についてお聞かせ下さい
しげっト
ブレイク後は様々な方面からオファーを頂いていたのですが、さっき言ったように、精神的、時間的にも全く余裕がなかった時期だったんで、各方面への対応がおろそかになっていたのは事実です。
しかし、海外からの反響も大きく、商業的なことより、まずは『キミとボク』のメッセージを世界に伝えるためになんとかしなきゃと思い始めていました。
しかし、海外からの反響も大きく、商業的なことより、まずは『キミとボク』のメッセージを世界に伝えるためになんとかしなきゃと思い始めていました。
しげっト
多言語化のオファーも各国から頂いたのですが、全てに対応するのは個人レベルでは無理なので、英語版を創れば当面はなんとかなるんじゃないかと思い、その中で一番熱意のあった方にお任せすることになり…その流れで翻訳者を育成、支援しているサイトのプロジェクトとして英語版を創ったわけです。
しげっト
ちなみに、『キミとボク』を直訳すると『You and I』になると思うのですが、それではニュアンスが伝わり難いと思いまして、『EVERLASTING HEART』とストレートなタイトルにしました。そのタイトルは『キミとボク』の意図するメッセージの1つ、そのままのタイトルです(笑)。大変分かり易いです(笑)。
しげっト
英語版を創るにあたり、言語的なニュアンスの違いというのもありますが、『天の川』というか、『七夕』自体の認識の違いもあるわけで、ならば、そういったエピソードも何らかの形で説明せねばいけないわけで…
しげっト
話が前後しますが、当時『キミとボク』は公開から数年が経っていにもかかわらず、相変わらず各方面から反響が続いており、自分としても、こんなに大勢の方々に観てもらうのならば、もっと時間をかけてクオリティの高いものにしておけばよかったという一種の後悔みたいなものもありまして、いずれは創り直したいと思っていた矢先でしたので、この機会に日本語版も一気にやっちゃえと…(笑)
UG-K
そういった経緯で誕生したのが『キミとボク Ver.2』なのですね
しげっト
そうですね。ただ、映像や楽曲のブラッシュアップという目的以外に、Ver.1で伝わり難かったメッセージ性を明確にするため、モノローグの部分的な削除や追加もしました。
しげっト
それにより、銀王号と青年の距離感やその間に流れる空気感も表現しつつ自分なりにはエンターティメント性のある作品になったかな…と。
作品に込められたメッセージや提案もVer.1では極々身近な方々へ向けたものでしたが、Ver.2ではより大きく、広範囲の方々に向けることが出来たと思っています。
作品に込められたメッセージや提案もVer.1では極々身近な方々へ向けたものでしたが、Ver.2ではより大きく、広範囲の方々に向けることが出来たと思っています。
しげっト
それと、英語版のプロローグシーン後半には七夕の日、夜空を見上げる家族のシーンを追加出来たこと、それも大きな収穫でした。このシーンを描くことにより、『キミとボク』のパート2的な作品『ココトワ』の方向性が完全に固まりました。このシーンに挿入された楽曲も素晴らしいです。
UG-K
Ver.2を公開してからの反響から書籍化することになったのでしょうか?
しげっト
Ver.2公開以後は、各方面からの取材依頼や商業的なオファーが更に増えました。書籍や映像化に関しても、何度もそのチャンスはあったのですが、ただ第一前提として自分とその作品を育ててくれたのは、ネットで支持してくれた方々という気持ちは譲れないわけで、なかなか実現には至りませんでした。
しげっト
しかし、そういった書籍化のオファーが立ち消えというか、辞退というか、反故になる度に『キミとボク』が1冊の本として書店に並ぶのを楽しみにしてくれている方々をがっかりさせてしまうという反面もありまして、数年前に『ピクチャーストーリーブック』を自社出版しました。
しげっト
出版した経緯が不明瞭だったにもかかわらず、それでも支持し続けてくれる方々が大勢いまして、自分は一体全体何をやってるんだと。無論、そういった方々以外の、まだ『キミとボク』を知らない人々にもそのメッセージを伝えたいという気持ちもあったわけで…
そんな中で非常に情熱的で理解ある編集さんとの出会いもあり、この作品を育ててくれた方々や自分を支えてくれた方々へ感謝の意味も含め、今回、ようやく書籍化となりました。勿論、書籍化は自分のためでもあり、銀王号への手向けでもあります。
そんな中で非常に情熱的で理解ある編集さんとの出会いもあり、この作品を育ててくれた方々や自分を支えてくれた方々へ感謝の意味も含め、今回、ようやく書籍化となりました。勿論、書籍化は自分のためでもあり、銀王号への手向けでもあります。
しげっト
いずれにせよ、その全ては、Ver.2で追加されたメッセージ「またあるきだそう」という言葉、それに集約されます。
また、最終的にこの言葉は書籍化によって昇華されたと実感しています。かといって成就したわけではありませんが…その言葉自体は永遠に完結しないものだと思いますんで…。
また、最終的にこの言葉は書籍化によって昇華されたと実感しています。かといって成就したわけではありませんが…その言葉自体は永遠に完結しないものだと思いますんで…。
UG-K
今回の書籍の同時掲載作品『その後のキミとボク』ついてお聞かせ下さい
しげっト
『キミとボク』に様々なメッセージを込めたといっても、尺の問題もありその全てを伝えきるというのは難しいわけで…かといって、中途半端な注釈を入れたりはしたくない。
しかし、『キミとボク』が創られた経緯やバックグラウンドを語ることにより見えてくるものもあると思うんです。
しかし、『キミとボク』が創られた経緯やバックグラウンドを語ることにより見えてくるものもあると思うんです。
しげっト
『その後のキミとボク』自体は、来年から本格的に制作に着手する予定の『ココトワ』の一部抜粋というか、ダイジェスト版的な意味合いが強いのですが、それでも『キミとボク』を補完し完結させるだけの役割は十分に果たしたのではないかと思っています。
しげっト
以前、自社出版した『ピクチャーストーリーブック』の作中作である青年が描いた設定の数ページにわたるコマ漫画と今回の『その後のキミとボク』、その2つというか、2冊の本、そして今回の書籍化のために制作したショートムービーを併せ、ようやく『キミとボク』という物語が完結したと考えています。このテーマに関しては、以降『ココトワ』で全力を尽くします。
UG-K
今後の制作予定についてお聞かせ下さい
しげっトキ
まずは、『TFC』という一話完結型のショートムービーを数本公開する予定です。この作品は『キミとボク Ver.1』と同時期に制作したポップな作品が基となっていますが、今回はそれをフル3DCGでリビルドしつつ、これ用に貯めに貯めたネタやネタ帳からもポップな要素のものを全放出するつもりです
…全放出は難しいかも…なるべく全部(笑)。
…全放出は難しいかも…なるべく全部(笑)。
しげっト
楽曲も松任谷由実や井上陽水らのサウンドプログラミングを担当した富永邦彦氏が全て担当することが決定しており、水面下で着々と準備を進めてますんで、面白い作品になるんじゃないかなと思ってます。
しげっト
『TFC』を軌道に乗せつつ、次期大作『十人桃太郎』を今年中に完成させます。こちらは、皆様に対しては面白いかどうかはなんとも言えない部分があるのですが、テーマ自体は大して重くはないですけど、純文学というか、兎に角、ディープな内容になるので、売り物にはなんないかな…たぶん(笑)。
数年前に、水墨画の巨匠小林東雲先生に題字等を提供頂いているんですけど、未だ完成には至らず…なんとしてでも今年中に完成させねばと思ってます。
数年前に、水墨画の巨匠小林東雲先生に題字等を提供頂いているんですけど、未だ完成には至らず…なんとしてでも今年中に完成させねばと思ってます。
しげっト
そして来年から『ココトワ』の制作に着手。こちらは人間視点の『キミとボク』として、青年の半生を描きます。『キミとボク』で青年が銀王号の安楽死を選択しなかった理由や、その他の様々な疑問もこの作品で明らかになっていきます。
しげっト
『キミとボク』から通して観てくれた方々が「ああ、そういうことだったのか」といった具合に感じてくれる要素も盛り込みつつ…しかし、これは連作になるので、いつ完結するやら…自分でも個人制作のアニメーションとして完結させるのは難しいというか、『ココトワ』に関しては全部は無理かも…。
しげっト
シナリオ自体は既に完成してるので、そこから断片的なエピソードを一話完結型で公開する等、さらなる推敲が必要かと…言いたいことは山ほどあるのにどうしたものかと…(笑)。
UG-K
最後にファンの方や購入を検討している方へのメッセージをお願いします
しげっト
やはり、フィードバックなくしては作品としての体を成さないと思っています。
自分にとっては作品を創り続けることが皆様へのアクションであり、リアクション。それに対し感想をくれたり、ブログや掲示版で紹介してくれたり、本を買ってくれたり、といった皆様のリアクションには、常に励まされ勇気付けられます。
自分にとっては作品を創り続けることが皆様へのアクションであり、リアクション。それに対し感想をくれたり、ブログや掲示版で紹介してくれたり、本を買ってくれたり、といった皆様のリアクションには、常に励まされ勇気付けられます。
しげっト
この恩は作品にてお返し出来れば幸いだと思っとります。答えは永遠に見つからないかも知れませんが、それでも自分なりの答えとして作品を創り続けますんでどうぞ宜しく。
しげっト
書籍版は自分なりに『キミとボク』完結編として世に出したつもりです。それに込めたさらなるメッセージを読み取って頂ければ幸いです。
UG-K
ありがとうございました
・UNIVERSAL RADIO