アニメーションにコンピュータが利用されるようになってから20年以上が経過するが、コンピュータによるCGアニメーション技術は、既存のアニメーションの概念を大きく越える所まで進化を遂げ、今も大学などで数多くの研究が進められている分野である。また現在のUGC(User Generated Contents)の発展によりこれらの技術がユーザレベルで積極的に活用され、普及に大きな拍車をかけている。そこで今回はCGアニメを革新する技術についていくつか紹介しよう。
<ARToolKit>
ARToolKitとは、拡張現実感アプリケーションの作成を支援するC言語のライブラリであり、現実世界と仮想世界を融合する拡張現実感(Augmented Reality:AR)という技術を実現するものです。「マーカー」と呼ばれる黒いグリッドをカメラに写すことで実写映像とCGを合成することができるそうです。まずは百聞は一見にしかず、ARToolKitを使った例をご紹介しましょう。
■ARToolKitで初音ミク(その4):解説編
■[電脳ペット] 初音ミクとあそんでみた
CG合成技術は昔から存在していたがARToolKitの新しい点は、マーカーの歪みから画角を自動的に調整した上でキャラクタをリアルタイムに合成できるところである。しかもそれがPCとUSBカメラだけで実現できてしまうことに驚きだ。
またさくーしゃ氏が、ARToolKitをFlashに移植したことを発表されている。気になる方はご参照ください。
・ARToolKit を Flash に移植したよ。 (さくーしゃのブログ)
<VPVP>
VPVPは「Vocaloid Promotion Video Project」の略であり、初音ミクの3Dモデルを操作できるソフト「MikuMikuDance」がリリースされています。二つのポーズ間の動きを自動計算して補完したり、音声ファイルやaviファイルと同期を取らせて編集ができ、3Dモデル初心者でも簡単に動画を作成することができるスグレモノ。しかもフリーソフトとして公開されていたこともあったため瞬く間に広がり、現在ニコニコ動画上では1000作品以上の「MikuMikuDance」動画が公開されています。
■【MikuMikuDance】ハニハニダンス【完全版】
■【初音ミク】オリジナル曲 「代打ミク」(PV)
動画をご覧頂ければわかるように、動きだけでなく表情やリップシンクなども編集することができるため、細かい演出も再現することができます。また現在、鏡音リンの3Dモデルを利用したVPVPの第2弾「RinRinDance」の開発が行われており、まもなく正式版が公開される見込みのようです。
・VPVP
<Live2D/モーションポートレート>
2次元的な映像を3D風に表現する手法として、Live2Dやモーションポートレートといった技術があります。これらは、写真や2Dのイラストに表情や顔の向きを変えるなど立体的な表現を加えることで3D風のアニメーションを作成することができるようです。
■Live2D Flash版サンプル

■涼宮ハルヒの約束(モーションポートレートサンプル)

もともと2Dであった写真やイラストを元にしているため360°自由に回転したりすることはできないものの、これまでの2Dや3D制作ツールでは難しかった細やかな表現などが簡単に行える技術として注目を集めています。
・Live2D
・モーションポートレート株式会社
続いては音声面の技術に関するいくつかの動きがあったので今回は音声面に関するツールや動画を紹介しよう。
<VocaListener>
きっかけは2008/4/28にニコニコ動画に投稿された1つの作品から始まる。
■【初音ミク】 PROLOGUE 【ぼかりす】
これまで数多く登場した初音ミクの作品とは明らかに異なる歌唱に、中の人が歌ったのではないかとかこの作品自体が釣りではないかと公開当時は騒然となった。しかしすぐに産業技術総合研究所で行われているユーザ歌唱を真似る歌声合成パラメータを自動推定するシステム「VocaListener」であることが判明する。
Vocalistenerのような手法をVOCALOIDに適用することについて賛否両論が上がる中、手作業でパラメータを調整することで人間の歌唱をシミュレートした作品が登場した。
■【本気MEIKO】 Dearest (pf mix) 【カバー曲】
■【初音ミク】 Dearest (yks remix)+α 【カバー曲】
技術方式について注目される中、5/28に第75回音楽情報科学研究会が開催され、VocaListenerの発表が行われた。VocaListenerの他にもクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の佐々木氏の招待公演で鏡音リン・レンのACT2(リニューアル版)が発表されるなどVOCALOIDに関する話題の多い研究会であったようだ。本研究会に関する情報は以下にまとめられている。
・CloseBox and OpenPod > ぼかりすの日のもとに : ITmedia オルタナティブ・ブログ
Vocalistenerの登場は、これまで曲単位の再現性を気にすることの多かったVOCALOID界隈に、歌唱法そのものの再現性に注目を与えるキッカケとなった。また「【初音ミク】 Dearest (yks remix)+α 【カバー曲】」の中で制作者が語られているように、ベタ打ちの歌唱法もVOCALOIDの魅力の1つであることが再認識されたことも大いに頷ける。つまりVocalistenerに代表される新技術は、VOCALOIDなどソフトウェアにおける音声合成技術に更なる可能性を与えるものと思われ、今後の動きに注目したいところである。
<MikuMikuVoice>
「MikuMikuVoice」とはCGアニメ作成ツール「MikuMikuDance」の作者でもある樋口優氏が制作したWAVEデータからピッチやダイナミクスなどの情報であるVSQデータを自動生成させることが可能なツールである。サイトでは「なんちゃってツール」として紹介されているものの、歌だけではなくおしゃべりの音声もVSQデータとして抽出できるため、これまで苦手とされていたVOCALOIDでの会話などの再現性を高めることができるかもしれない。またリアルタイムに処理・再生することができればボイスチェンジャーとしての可能性も考えられる。
■【MikuMikuVoice】人間→ミク声変換でオリ曲を歌わせてみた【神ツール】
・VPVP
<UTAU>
人力VOCALOID支援ツールとして「UTAU」というソフトがある。音声ファイルを切り貼りして歌を作るというMADムービー的な制作スタイルに近いツールであるが、使い勝手の良さもあってか秘かな人気を集めている。
■【UTAU】「サイハテ」をミクとでゅえっと【with くぎゅボイス】
本記事を執筆した現在の最新版はv0.1.79が公開されている。
・歌声合成ツールUTAU サポートページ