2007年末にVOCALOID2 キャラクター・ボーカルシリーズ第2弾として『鏡音リン・レン』が発売された。初音ミクの発売から約4ヶ月、当初は「鏡音リン(仮)」としてプレリリースされたが、後に一人二役として「鏡音レン」が告知され、発売前から大きな反響を呼んだ。ファンから多くの期待を受けて12月27日に発売された「鏡音リン・レン」は、初音ミクの発売当時とは異なり、DTM専門店以外にも多くの店舗で積極的に販売された。その結果、初音ミクと同様に音楽ソフト市場で驚異的な売り上げシェアを伸ばしている。

 ・「鏡音リン・レン」発売 秋葉原はどこでも売ってるのがフツー – アキバBlog

発売から1ヶ月した現在、ニコニコ動画では『鏡音リン・レン』のタグを持つ動画は4,000作品を越えている。これは初音ミクの発売当時以上の勢いである。そこで今回はネットに公開されている作品を中心に『鏡音リン・レン』のブームの動きを探るとともに、発売元のクリプトン・フューチャー・メディア(株)メディア・ファージ事業部さんに『鏡音リン・レン』を中心にVOCALOID2シリーズにまつわる様々なことについて伺ってみた。

<鏡音リン・レンとは>
メロディと歌詞を入力するだけでリアルに音声合成された歌声を生成するキャラクター・ボーカル・シリーズ第2弾。声優の藤田咲さんの声をもとにした「VOCALOID 2 初音ミク」に続く第2弾では、THE IDOLM@STERでも双子のキャラクター、双海亜美・真美役を演じた下田麻美さんを起用し、女性ボイスである『鏡音リン』と男性ボイスである『鏡音レン』の一人二役を演じている。

『鏡音リン&レン』の歌声は、声の通りが良く、明瞭でハッキリとしたサウンドを特徴としている。『鏡音リン』は、F#3~C#5の音域を中心にエレクトロ系やロック系のポップスをはじめ、歌謡曲や演歌のようなソウルフルな歌唱を得意とする。また、『鏡音レン』はD3~C#5の音域を中心にダンス系やロック系ポップス、演歌系ポップスを得意としている。またジェンダーファクター機能により、男性的な要素を加えることで、声に太さが加えられたソウルシンガー風になったり、逆に女性的な要素を強く加えることで、エレクトリックな質感のチビ声やロボボイスなど様々な声質に対応する。



<鏡音リンの作品傾向>

まずは上記のグラフをご覧頂きたい。これは「鏡音リン・レン」の発売後からニコニコ動画上にアップされた作品数である。このグラフを見ると発売当初から既に500作品以上の作品が公開されていたことがわかる。これは、発売直後に公開されたものではなく、発売前に公開された鏡音リンのイラストや音声を担当した下田麻美さんの楽曲を元に作られたものであり、鏡音リン・レンに対する期待の高さが伺える。その中でも鏡音リンのイメージを決定づける元になったと言われる動画が12月上旬に公開された。

初音ミク「すいません・・・、鏡音リンを予約したいのですが・・・」

初音ミクとネギの組み合わせに対して鏡音リンにも何かアイテムをと考えた末に生まれたのが「ロードローラー」である。ロードローラの楽曲がブームになった後に組み合わせの原因として指摘されたこの動画は、「お前かー」との多くのコメントが寄せられた。

この動画をキッカケとしてロードローラと鏡音リンを組み合わせた動画が数多く公開された。その中でも良い意味でVOCALOIDに対するイメージを破壊した以下の2作品によって鏡音リンブームが起きた。

【鏡音リン】ぶっちぎりにしてあげる♪【ロードローラー最速伝説】

【鏡音リン】逆襲のロードローラー【オリジナルソング】

事実これらの動画をはじめ、鏡音リン・レン動画のニコニコ動画上での1日あたりの登録数は、1月上旬では初音ミクを越えていた。また初音ミクとネギの組み合わせのキッカケになった『VOCALOID2 初音ミクに「Ievan Polkka」を歌わせてみた』も制作者のOtomania氏によって鏡音リンがカバーするバージョンにリメイクされた。VOCALOIDライブラリを初音ミクから鏡音リンに差し替えただけでなく、細かなイントネーションも再現するように強化され、鏡音リンの持つポテンシャルの高さが改めて示された。

VOCALOID2 鏡音リン・レンに「Ievan Polkka」を歌わせてみた(仮ver.)

また、鏡音リンのポテンシャルを試す作品として課題曲と呼ばれる作品も登場した。これらの作品は主にIDOLM@STERで双海亜美・真美の歌をカバーしたものになっている。その中でも以下の作品は再現性が高く、違和感がないとの高評価が得られている。

鏡音リン課題曲『エージェント夜を往く』に挑戦しました

ロードローラや亜美・真美のイメージが強い鏡音リンであるが、一方でオリジナル曲も早くから生まれ、通りの良い声を武器に表現力豊かな楽曲が生まれている。

【鏡音リン】リンリンリンってしてくりん【オリジナルソング】

【鏡音リン鏡音レン】リンリンシグナル【Full Ver.】オリジナル曲

【鏡音リン】よつばのクローバー【オリジナル曲】


<「鏡音リン・レン」インタビュー:前編>
鏡音リン・レン誕生の経緯について

UG-K
「鏡音リン・レン」の名前の由来やコンセプトを教えてください。

Crypton Future Media
世界で一番近い(つまり分かり合える)男性と女性は、間違いなく恋人同士ではなくて、自分の分身だと思います。それをVOCALOIDという技術を使って、声優さんに男女両方の役を演じてもらう事で実現しようと考え、リンとレン、頭文字はRとLを考えました。

Crypton Future Media
1人の人間から逆算して、人為的にデジタル化したような…鏡に写ったような対象的な、ある種の一卵双生児のような男女ツインボーカルを表現できないかなというイメージです。背景としてはアンドロイド&二足歩行のロボット技術やクローン技術が、水面下でいまなお発達している時代に丁度良いかなと思っています。

UG-K
声優の下田麻美さんを起用したポイントを教えてください。

Crypton Future Media
『初音ミク』と表現的な違いを出せるよう、キャラクター的にパワフルで元気の良さそうな声優さんの中からピックアップさせて頂きました。また、コンセプトを伝えた上での声優プロダクション様サイドからの推薦もありましたね。

UG-K
下田さんの起用は初音ミクがニコニコ動画でブームとなる前から決まっていたのでしょうか?

Crypton Future Media
正確には『初音ミク』がリリースされるかなり前の段階で、メイコの動画が出始めた頃でしょうか。アイドルマスターの曲をメイコが歌う動画などは、チェックしておりました。

UG-K
当初『鏡音リン』とのみ発表されていましたが、その後レンも追加発表されました。2人組となった経緯についてお聞かせ下さい。

Crypton Future Media
リン&レンのラフ絵をKEIさんより頂いたのが2007年5月9日、レンの録音が9月28日ですね。5月の時点では完全に2人1組で出すというプランが決定していたわけではないのですが、準備だけはしておりました。その後『初音ミク』の急速な展開の中で、リン&レンのコンビネーションを9月中旬に決定しました。

UG-K
「鏡音リン・レン」を構成する要素としてイラスト、音域、声優さんなどがありますが、製品化するに当たってどういう順序で決めていったのでしょうか?

Crypton Future Media
コンセプト、声優、イラスト、音域の順番でしょうか。まず初音ミクとは違う声の出し方をVOCALOID化するという事が一番初めにありました。

UG-K
初音ミクのヒットにより声優業界から後続シリーズで演じたいなどのアプローチはあったでしょうか?

Crypton Future Media
『初音ミク』以降、特に弊社から、新規に声優プロダクションさまへのアプローチは取っておりませんので直接的には判りません。また、逆に声優プロダクション様からのアプローチも多くは無いですね。

製品について

UG-K
音声データベースの他にVOCALOID Editorなど製品としての改良点はあるのでしょうか?

Crypton Future Media
現在の所、Editorにはバグフィクスを中心としたマイナーアップデートが加えられております。また内部的なデータベースを作る開発ツールも、マイナーアップグレードを中心に更新がかかっております。

UG-K
初音ミクでは英語の歌詞を歌うことに苦労されている作品をよく見かけますが、日本語、英語両方をサポートされることはないのでしょうか?

Crypton Future Media
可能性的には有り得ますが、具体的なスケジュールまでには至っておりません。

UG-K
ソフト音源ではよくある話ですが、追加音源が後に発売されるというような話は、今まで登場した初音ミクや鏡音リン・レンなどにも予定はあるのでしょうか?

Crypton Future Media
これも検討したい所ですが、仕組み作りから練らないといけないので、直ぐにプランとして上がってくる事は無いと思います。

(次回に続きます)