【CloseUp IA】『塚原重義、奮闘中』イベントレポート(過去編)【新連載】


インターネットが日本で普及して20年以上が経った現在、スマートフォン1つで動画がアップロードできるように、動画を投稿・視聴するハードルは格段に下がりました。その一方でYouTuberに代表されるように、歌い手や踊り手、ゲーマーなど自らが得意とするスキルを武器にした動画がネット上に溢れたことで、作品を見てもらうハードルは昔より上がったのではないかと感じられます。
このような時代に作品を多くの人に見てもらうためには、作品のクオリティだけではなく、セルフプロデュース力が求められるのではないでしょうか?
本連載では、個人制作アニメ(Independent Animation)を中心にクリエイターたちの『今』をお届けします。

ちなみに超不定期連載になる予定ですのであしからず。。



イベント会場: SOOO dramatic!


2017年11月23日、東京・入谷の「SOOO dramatic!」にてアニメーション監督・塚原重義さんの応援イベント『塚原重義、奮闘中』が開催されました。
本イベントでは、過去作品の上映のほか過去・現在・未来をテーマに塚原監督と縁のあるゲストとのトークショーで構成されていたほか、イベント後には交流会が設けられていました。
本レポートでは3回に渡って、トークショーの模様を中心にイベントの様子をお届けします!

活弁士・坂本頼光さんの口上により開幕したイベントではまず塚原監督のリールが上映された。その後、2004年12月30日に公開された 自主制作アニメーション『ウシガエル』が上映されたあと、以下3名のゲストと塚原監督を交えて、『ウシガエル』制作秘話をはじめ、塚原作品のルーツを探ったトークショーがスタートした。

ウシガエル


<過去編ゲスト>
UG-K: フリーライター、Flashや個人制作動画を中心に紹介するブログ『II-Access(イイ・アクセス)』管理人
かーず:フリーライター、アニメ、漫画、ラノベ、ゲームなどコンテンツ情報メインのニュースサイト『かーずSP』管理人
大童澄瞳:漫画家、別名デンノー忍者、月刊!スピリッツにて『映像研には手を出すな!』連載中
ブログ『ザリガニを釣れ!』管理人



UG-K
私が当時塚原さんの作品を最初に見たのが、甲鉄傳紀シリーズの『戦雲の高層都市』だったのですが、最初の印象としては戦争モノなのかなというイメージを受けたんですね。

UG-K
当時FLASHという形式で数多くの作品がネットに公開されていましたが、戦争を題材とした作品は、実際にあった歴史をまとめて紹介したものが主流でした。

UG-K
塚原さんの作品も、初期の頃は戦争モノが中心でしたけど、その後の作品は段々エンターテイメント色が強くなって、見ていて非常に楽しい作品に変貌していったと感じました。
ほかにそういう変化を遂げた作品ってなくて、その独自の世界観が非常に特徴的だったというのが強く印象に残っています。

かーず
僕的にはやっぱり作風とかもそうなんですけれども、当時2ちゃんねるではギコ猫とかモナーなどアスキーアートで作られた絵をFLASHで動かすのが流行っていたんです。
そういった中で、ここまで普通のセルアニメと遜色のないFLASHアニメが公開されたことに度肝を抜かれて非常に注目してました。

かーず
今上映された『ウシガエル』もエンターテイメントとして非常に面白く、一言もセリフがないにも関わらず楽しめるところにすごく魅力を感じています。あれは学生の頃に作られたわけですよね?

塚原監督
はい、学生の頃です。

かーず
最初にFLASH動画作ろうと思ったきっかけを伺ってもいいですか?

塚原監督
最初高校生の頃は実写で作品を撮っていました。だけど好きな世界観にしたかったら舞台や役者を用意しなければいけないので、だったら描いた方が速いなというところからアニメ制作をはじめました。

塚原監督
当初は「After Effects」などで作っていたんですが当時のマシンスペックではとても重く、どうしたものかと悩んでいたとき、友人からFLASHを紹介されたのがきっかけでやってみようかなと思いました。

かーず
まずはじめにマシンスペックに課題があったんですね。当時ネットに少ない容量で公開できる形式としてFLASHに魅力を感じられているところもあったのでしょうか?

塚原監督
はい。なので学生時代に一番最初に公開したものは3DCGで作った作品なんですけれども、swf形式に変換してからネットに公開しました。その後の作品からは純粋にFLASHで作るようになりました。

かーず
一人で制作するのは相当時間かかりませんでした?

塚原監督
最初のうちは自分の得意なこと・不得意なことを選別して、自分のできることだけで物語を作れないかという考えて制作してました。
特に『ウシガエル』では、人間の絵を描くことができないという理由からああいう作品ができあがったんです。

かーず
それであの超面白い作品ができるのは凄い才能だと思うのですが、割と人間が出てくる作品も他にありますし、そのあたりは自分の可能性を色々探っていた時期だったということでしょうか?

塚原監督
『ウシガエル』ではやれることをやっただけで、そこまでは深く考えてなかったですね。ただこの作品で良い反応をいただけたことで、改めて作り手として自分がどんな存在なんだろうということを考え始めて、『春陽とわたし』と次の『通勤大戦争』では、最初にコンセプトからキチンと決めて作るようになりました。

UG-K
『ウシガエル』をキッカケにその後の『春陽とわたし』『オーニソプター』『通勤大戦争』の流れの中において、作品の焦点が機械の方から人間に移ってきたなという感じがするんですけれど、そのあたりで作り方とか心境の変化というのはありましたか?

塚原監督
『ウシガエル』に関しては、コンテも何もなく本当に話の終わりを決めずに作り始めて、とにかく頭から思いついた映像をつなげるといった感じのアクション中心のストーリー構造だったんです。でもそのようなストーリー作りに限界を感じて、今度はちゃんと人間が出てくるドラマを作ろうと思いました。

かーず
それでも『ウシガエル』は犬がネズミを頭に乗せて、そろばんをスケボーみたいにして街中を走り回るなんてめちゃくちゃ面白いじゃないですか。これどうやって思いついたのか聞きたかったんですけれど、即興的なアイデアを積み上げて作ったんでしょうか?

塚原監督
実は、当初ネズミではなくハエだったんですよ。でもハエ取りマシーンが出てくるようなストーリーはあまり可愛くないからネズミにしようと(笑)

かーず
確かに登場人物に感情移入するなら、その対象は可愛らしいネズミのほうがいいですよね。

塚原監督
あとはやれることが多分哺乳類の方がいい気がして。ハエはただ飛んでるだけですから(笑)

かーず
ハエにしなくてよかったですね。ハエだとここまでの高評価は得られなかった気がします(笑)

塚原監督
実はハエで空中戦をやろうと思ったんです。その空中戦の映像が後の『通勤大戦争』につながっています。



UG-K
初期の頃の作品では戦車が出てくることも多かったと思うのですが、私が特に印象に残ったのは裝脚戰車です。あれはどういったところから着想を得たんでしょうか?

塚原監督
中学か高校ぐらいの時は当初ロボットアニメが作りたいと思っていました。
それで“自分の中の理想のロボットって何だろう”と思い描いたところ、頭はいらないし手もいらない、腰もいらないとなって、どちらかと言うと戦車に足が生えた形になるのかなと思い最終的にこういった形になりました。

かーず
昔からロボットアニメがお好きだということなんですけれども、何か影響を受けた作品ってありますか ?

塚原監督
ロボットアニメ限定で言うと勇者シリーズです。「黄金勇者ゴルドラン」ていうアニメが大好きでした 。そこからサンライズ作品が好きになって、じゃあ自分がロボットを作るとしたらどうだろうということを考え始めて…

かーず
そこで興味が戦車に行くわけですか。

塚原監督
はい。

UG-K
従来の戦車というのは重々しくて鋼鉄で囲まれた硬いっていうイメージがあるんですけど、裝脚戰車は山を駆け上ったりするじゃないですか。こういう既成の概念を打ち崩したところが非常に斬新だったと思います。

UG-K
こういう今までの概念を覆した作品って『甲鉄傳紀シリーズ』以外だと、ラレコさんの『やわらか戦車』がありますよね。
この作品も固いという戦車の従来イメージを柔らかくしたことでその意外性がウケたのだと思います。そういった点では、塚原さんの作品は戦車的なキャラクターアニメの元祖ではないかと思ってます。

大童澄瞳
『ウシガエル』が公開された頃、僕は多分小学校5年生とか6年生の頃だったと思うんですけれど、そのくらいの時にFLASH系のサイトに一日中入り浸っていました。
その中で発見したと思うんですけれども、FLASHアニメーションってここまで凄い動画が作れるんだなと思いました。

大童澄瞳
いま僕は漫画を書いてますけれども、ここから影響を受けたんだなとというのがものすごくあります。
砲身が2つ付いている豆タンクみたいなものを僕も漫画の中で描いていて、こじんまりしてタフなメカというのが好きになったキッカケみたいなものが、この『ウシガエル』にあるんじゃないかなとすごく思いますね。
当時はまさかここまで自分が影響を受けるとは思わず、熱中して見ていてました。

かーず
塚原さん大童さんお二人のイマジネーションというのを知りたいんですけれども、100%空想や想像の中で考えられたんですか?

大童澄瞳
そうですね、現実世界にあるものを小型化したりとか、時代を変えてみたりとかすることはあります。
あと自分が本当に求めているモノが明確な形で自分の中にあって、それが今の世の中に無いから自分で作るしかないということがちょっとあります。

大童澄瞳
なので塚原さんの『ウシガエル』は、恐らく自分の中に確固たる「これが好きだ!」というモノがあって、それを世間の流行に流されることなく作ったのはスゴいことだと思います。
僕の印象しかないんですけれども、そういった作品に対して共感できるところがあります。

塚原監督
好きなものしか出してないですけど、もともと『ウシガエル』ぐらいまでの作品は、箱物を作っている感じです。小中学生の頃はジオラマを作るのが好きだったんですけど、その延長上になっている部分があります。

かーず
世界観を作るのが気持ちいいみたいなところがありますね?

塚原監督
はい。あとは歴史も好きなので、スチームパンクと言われるのもそうですが、石油が枯渇して木炭がエネルギーの主流になっている世界とかいろいろ細かい設定はしています。

かーず
それが蒸気機関が発達している理由になっているんですね。

塚原監督
蒸気機関が発達しているということはプラスチックがない世界だとか、ビニール袋が出てこないとか、いろいろ発想を発展させていくことを考えつつも、面白さ優先で無視したりする設定もあります。

かーず
塚原作品っていえば物語の中に登場する看板だと思うんですよ。それが僕の中ですごく印象に残っていて、レトロ調な看板だとかそういうものにすごく惹かれます。あの懐かしい感じがする看板は何かこだわりがあるんでしょうか?

塚原監督
看板にこだわりがあるというよりは、単純に背景を描くのが大変なので、その空間を埋めつつ遊ぶみたいな(笑)
確かに古い看板を見るのが好きだということもあるのですが、それは副次的な理由で本当に空間を埋めて世界観の密度をあげたいというのが一番にありました。



UG-K
先ほど話されていたように塚原さんの世界観とか設定というのが作品から強く感じられるんですけれども、逆に当時2004年くらいからFLASHイベントが開催されて、直接視聴者の方に見てもらうことが増えていった中で何かお客さんを意識して作品作りをしてきたことはありますか?

塚原監督
お話の面白さをもうちょっと重視しようって思い始めました。『ウシガエル』はその点ですごく適当だったので、もう少しきちんとしようといった意識にはなりました(笑)

UG-K
作品の中にもネタ的なものが、いくつか散りばめられてたりしますが、そういった点も見る人を意識して作られた部分なのでしょうか?

塚原監督
そうですね。その時点での過去作品と微妙に繋がっているとか、そういうのを仕込むことが好きでやってました。喜んでくれる人もいるだろうという感じで割と積極的に行ってました。

かーず
大童さんは、塚原作品でお気に入りのものはありますか?

大童澄瞳
『通勤大戦争』が好きですね。あと『オーニソプター』とかがすごく好きですね。
あの作品以来、BGMのボレロがすごく好きになって、寝るときはずっとボレロをかけていた時期がありました(笑)

大童澄瞳
やっぱり音楽を入れると映像作品として一本軸が通るような気がします。僕も高校の頃、実写映画を取っていたんですけれども、映像が流れている時にこういった音楽を入れればいいんだということが、この作品をヒントに出てきたところがあります。

大童澄瞳
あと『春陽とわたし』の女生徒が通っている大学が、多摩工科大って言う大学なんですけれども、その大学名のフレーズがすごく好きでした。理由はちょっとわからないですけれども(笑)

かーず
よく見てますね(笑)

大童澄瞳
その多摩工科大っていうのあるのか探してみたのですけれど、架空の大学らしく見つからなくて…

塚原監督
僕が通った八王子の大学をモデルにしています。その大学のメディア学部に在籍していたんですけれど、全然学校に行かずに『ウシガエル』とかを作ってました(笑)

かーず
『オーニソプター』の話で大童さんからボレロに関する話がありましたが、いかがでしたか?

塚原監督
あれはまだ『ウシガエル』を作る前の作品で、さきほど話に出たFLASHイベント「Flash☆Bomb ’04」に出展した作品です。当時バトルアクションものしか作っていなかった中、イベントの出展者一覧を見たら活動漫画館の“のすふぇらとぅ”さんがいて…
結局出られなかったんですけど、のすふぇらとぅさんが出るならアクションものをやっても勝てないと思って、別のものでやろうと作ったのが『オーニソプター』です。

かーず
僕的に『オーニソプター』で驚いたのは、キャラクターを動かすのではなく、背景を動かすことで動画を見せるというのがすごく斬新で面白かったです。
このアイデアを思いついたきっかけは覚えてらっしゃいます?

塚原監督
要はアクションと正反対を行こうということです。背景だけひたすら描けば完成するかみたいな思いで作りました。

かーず
その分背景を頑張ろうとしたら結果的にキャラクターは止まってる状態で背景を動かす逆転の発想に至ったわけですね?

塚原監督
はい。




まだまだ話題が尽きないなか過去編によるトークショーは閉幕となった。
次回は2010年以降の塚原監督の活動に関するトークショーの模様をお届けします。