【CloseUp IA】『塚原重義、奮闘中』イベントレポート(未来編)


未来編トークショーの模様


2017年11月23日、東京・入谷の「SOOO dramatic!」にてアニメーション監督・塚原重義さんの応援イベント『塚原重義、奮闘中』が開催されました。
本イベントでは、過去作品の上映のほか過去・現在・未来をテーマに塚原監督と縁のあるゲストとのトークショーで構成されていたほか、イベント後には交流会が設けられていました。
前回の現在編に続き、現在制作中の新作の予告編の上映と新作に関する話を伺った未来編のトークショーがスタートした。

<未来編ゲスト>
迫田祐樹: Twiflo,LLC アニメーションプロデューサー、アニメクリエイター取材メディア「JapanAnimeMedia」編集長。塚原重義監督の最新作品をアニメーションプロデューサーとしてサポートし、完成にこぎつけるために同じく奮闘中。
皆川一徳: アニメーター、数々のアニメ作品にて原画、作画監督を担当。最近では『マクロスΔ』にて作画監督、『劇場版ポケットモンスターキミにきめた!』にて作画監督。塚原作品においては『端ノ向フ』でアクション作画監督、現在制作中の最新作ではキャラクターデザインを担当する。



皆川一徳
『端ノ向フ』からもう5年経っているんですね。

塚原監督
経ってしまいましたね。

皆川一徳
作る側としてはやっぱり5年後のものって見たいですよね。

塚原監督
この作品は『端ノ向フ』のひとつ前のオリジナル作品です。『端ノ向フ』の制作が終わった2012年の6月くらいに、次は列車活劇みたいなものを作ろうと朧げに思っていたんですけど、その辺りから真面目に構想を始めまして、2012年の年末くらいに列車で地下世界を冒険する話にしようという方向性が決まりました。

塚原監督
その後『女生徒』や“SEKAI NO OWARI”の仕事をこなしつつ構想を重ねていって、2014年の秋頃に大まかなプロットやキャラクターの原案が出来上がってさあどうしようと。そこからがまた長いんですよね。

皆川一徳
今はこういう形になろうとしているところですが、実際今までの作品と比べてさらに規模が膨れてますよね。これは制御できるかというのがみんなの共通の悩みだと思うんです。

塚原監督
初めはもっと短い予定だったのですけれど、色々な要素が加わって長くなってしまったというところですね。『端ノ向フ』が10分、その次に作った『女生徒』が14分だったので、自分が監督しきれる尺の長さって、次は20分とか30分なのかなと思っていたんですけど。色々あってもっと長くしましょうねということになってしまい、本当に大丈夫なのかと…

皆川一徳
そうですね。

塚原監督
あと初期の僕の書いたキャラクター原案は、今のキャラクターと比べると全然違っていて可愛くなかったですね(笑)

迫田祐樹
今回この作品の企画書をはじめに絵コンテから見させてもらって、塚原さんの作品全部に共通しているのは、やっぱり圧倒的な世界観というところだと思います。
大きい舞台で色んな人に見てもらいたいというところから、長い尺というものが商業的には求められているのですけれど、その商業に落とすにあたって一番僕が気にしたのはキャラクターなんです。

迫田祐樹
物語が面白いというのは、テンポや演出が良いところなんです。でもこれはあまり言い方良くないんですけれど、やっぱり皆キャラクターの見た目で判断してしまうところがあって、最初に見た目が好きじゃなかったので見てもらえないという、すごく勿体無いことが塚原さんの作品では起こっているのではないかという思いがありました。

迫田祐樹
今の作品だからこそ強いファンがいるとは思うのですけれど、もっと多くの人に見てもらってどんどん作品を作れるようにするためには、キャラクターをかっこよくしたり可愛くしたり、心に残るようなキャラクターを作りたいという思いがあったので、原案に参加させていただくことになりました。
これまでの作品でも塚原さん自身が意識されていて、可愛いかったりかっこ良く見えるというところを目指されている中に、プラスαとして皆川さんにお願いして、更にかっこいいもしくは可愛いところを追求しています。

皆川一徳
キャラクターに関して聞かれると困ってしまうところが結構あるんですけれど…
実は最初にPVを作るという話が先に来ていて、PVを作る上で設定が必要という中で作ったものなので、今キャラクターが四人いるのですがこれを書き上げたのが2週間ぐらいでしたね。

迫田祐樹
事情があってPVを作りたいタイミングに無理に合わせていただいたので、いろいろ焦らせてしまったんです。

皆川一徳
自分の中で塚原さんから受け取ったイメージをふくらませる期間っていうのが、やっぱり短かったなというのがあったので、そこは本編に取り掛かる頃にはもっと発展してるといいなと考えてます。

迫田祐樹
主人公のキャラクターについて塚原さんはどのような思い入れがありますか?

塚原監督
このキャラに関しては割と皆川さんにおまかせというところがあります。服装とか装飾品に関しては僕が別途設定をあげているんですけれども人物顔の造形とかはおまかせな感じですね。

皆川一徳
このキャラクターが物語の中でどういう立ち位置になってくれるかで色々あるとは思うんですけれど、割と王道感があるデザインかなと思っています。
何て言うか「バイオハザード」のミラ・ジョヴォヴィッチのようなイメージをちょっと意識して描いたんです。

皆川一徳
キャラクターは4人いて、紅一点という形ではないんですけど、そういうふうに見えるようにデザインしています。このキャラは時間がかかりました。

塚原監督
なかなかうまい落としどころがなかったのですが、最終的には結構僕は満足してます。

皆川一徳
後は本編の中で撮影処理だとか背景とかの合わせによって見え方というのがかなり変わってくると思っていて、その突き詰め方次第でもっといけるかなと言う感じがしますね。




迫田祐樹
いきなりキャラから離れてしまうんですけれど、アニメで言うとこういう所ってプロット設定って呼ばれていて、作品の世界観を補完するというか、これによってかなり世界観が引き立つといいますか…
今回初めて関わらせていただいて気づいたのですが、やっぱり塚原さんの作品はプロット設定が非常に多いですよね。

迫田祐樹
先程の現代編でも土地に関するお話をされてましたが、塚原さんの作品はルーツに紐付いているものが大きいので、この作品も東京の土地を舞台にしているというところがあるんですよ。その足元にある世界といったものがこの作品のテーマになっているんですけれども、その辺りの話を説明いただけますか?

塚原監督
世界の異境というものにどこで興味を持ったかと言うと定かではないんですけれど、僕が小さい頃は隅田川の向こうという異世界があって、隅田川の堤防までが自分にとっての世界の終点って感じでした。
大人になるにつれて世界が広がってくんですけど、子供の時の身近に異世界があるような感じを自分のテーマに据えだして、『端ノ向フ』ではそういう水平軸上の異世界を描きました。

塚原監督
今回は垂直方向の異世界ということで地下世界というのを描きたと思いました。小さい頃、千代田線が最寄りの地下鉄だったのですが、子供の頃って地下鉄の暗いトンネルから見る車窓って異世界だったんです。
あの向こうには何かあるんじゃないかとそういう気持ちを作品にしたいなと思ってました。それにプラスして伝記的な要素、例えば古事記とか日本書紀でも根の国とか地下他界とか言いますけど、割と世の東西を問わず地下空洞説とか地底探検みたいな話は昔からあって、人類が想像する地下にある異世界と言う要素を取り入れていきたいなと思ってます。

迫田祐樹
これ本当にたまたまなんですが、この作品の舞台が北区なんですけれども、東東京っていうのが塚原さんの作品が集約しているというのもあって、今回のイベントも関連性がある場所を選びました。

塚原監督
多摩工科大学の話でもありましたけど、現実の東京をベースにもう一つの架空の東京という設定は昔からずっとやってきたことで、それが『端ノ向フ』と一つ前の『よろず骨董 山樫』 あたりから結構明確に自分で意識してやっています。
『端ノ向フ』に関しては大体荒川区辺りをモチーフに自分が思う架空の世界があって、今回はそこよりちょっと北側に移動した王子にしようと。自分に縁のある土地を順々に異世界にしていこうかと思ってます。

迫田祐樹
ちょっと話の方向が変わってしまいますが、今日過去編現代編未来編という中で塚原さんの制作手法に変わった遍歴があります。かなり昔からフルデジタル作られてきてるのですが、実は現代編では制作現場の中で紙が介入しているんですよね。
さっきの話でも言われていた制作手法を現場に寄せるというところで、紙が原画や動画という形で上がってきて、それで未来編ではまたフルデジタルに戻っているところが面白いなと。

塚原監督
そもそもFLASHから普通の作り方に変えたというのはさっき話した通りなんですけれど、 まだ2010年とか11年の頃はフルデジタルで作れるのか分からないし、考えにも及んでいなかったので普通のやり方をしただけです。
まあ単純に時代の変遷ですね。最初からデジタル作画でアニメが作れる時代になってきたので、そっちにシフトしてきたということです。

皆川一徳
実際商業アニメの現場でも、デジタルで原画を書いてくる人っていうのがここ2~3年ぐらいで激増しています 。そういう流れの中でこういう作品が出てくるのは普通のことだなと思います。今はまだ紙の割合の方が多いですが、あと10年ぐらいしたらこういう制作手法がメインになってくるのかもしれません。




オリジナルVRコンテンツ


現在制作中の作品の話題から将来の制作手法に関する話など深い話を聞くことができた未来編のトークショーはこうして閉幕となった。

またイベント後の交流会では、オリジナルVRコンテンツを体験することができた。機材トラブルにより完全には再現できていなかったものの、塚原作品の世界観との相性が良く新たな可能性を感じさせるコンテンツだった。


3回に渡ってお届けした『塚原重義、奮闘中』いかがでしたでしょうか? 本イベントは単なるファンイベントだけには留まらず、プロトタイプの反応を探る場であったり、個人のスポンサーを募るクラウドファンディングの要素を兼ね備えたイベントとなっていました。こういった企画の進展により、個人制作の現場が盛り上がっていくことを期待したいと思います。